地域に生きる“みまさか”の若手たち
山本 敦史・侑香さん =美作市古町
地域に生きる“みまさか”の若手たち
山本 敦史・侑香さん
=美作市古町
田舎で新しい価値創造
旧因幡街道の宿場町として栄えた大原宿にたたずむ「難波邸」。敦史さんと、妻で染織を手掛けるデザイナーの侑香さんが営む宿泊施設であり、2人のアトリエでもある。築100年の古民家を改装した素朴な空間には、草木染のストールやウエディングリングなどが飾られている。
宿泊施設と仕事場を一つ屋根の下にしたのには理由がある。「物を作る豊かさを取り入れた暮らしの空間を訪れた人と共有したい」。侑香さんが2人の思いを語ってくれた。
敦史さんは神戸市、侑香さんは津山市加茂町出身。大阪芸術大で知り合った2人は卒業後に結婚した。2011年にダイヤモンドの研磨産業が盛んなベルギー・アントワープへ1年間留学。インターネットを通じて世界中に販路を広げている職人たちに刺激を受けた。
敦史さんは「どこで仕事をしても身を立てることはできる。創作に没頭できる環境こそが大切なのだと気付いた」と言う。
12年に帰国後、侑香さんにとって愛着のある県北で移住地を探した。知り合いの紹介でその年の秋、美作市北部の中右手地区に移り住んだ。
当初は夫婦とも制作に専念していたが、侑香さんの実家の母屋が空き家になったのを機に14年から農家民宿「UJITEI(ウジテイ)」を始めた。難波邸はもともと別のデザイナーらが食堂や雑貨店を構えていたが、16年から運営を引き継ぎ「UJITEI」のノウハウを生かし、宿泊施設に改装した。今年4月からは美作市の指定管理を受け、観光宿泊施設トム・ソーヤー冒険村を運営している。
これらの施設をただ泊まるだけの場所にはしたくなかった。そこでしか得られない体験に重点を置いているといい、UJITEIでは田植えや雪かきなどの田舎暮らし、難波邸では夫婦の技術を生かして指輪の金属加工や地元の素材を使った草木染の体験、トム・ソーヤー冒険村はアスレチックや川遊びを提供している。
侑香さんが「デザイナーだからこそ魅力的な空間を作る方法を知っている」と言い、敦史さんが「それが個性になり、地域に人を呼ぶことにつながる」と言葉をつなぐ。
テレビや雑誌で難波邸を中心に取り上げられるようになり、事業は軌道に乗り始めた。今後は、自分たちと同じように宿を始めたいという人へ運営のサポートをしたいという。
「田舎ならではの素材や自然、文化を生かし、心が安らぐ場を提供していく」
ゆったりとした時間の中で創作や田舎暮らしをするからこそ見えてくる新しい価値がある。2人はそう信じている。