地域に生きる“みまさか”の若手たち

竹内由里子さん =美作市右手

地域に生きる“みまさか”の若手たち

竹内由里子さん
=美作市右手

台所を甘い香りが包み込む。あんこの水分量に目を配り、煮立つ音に耳を澄ませながら、ゆっくりとかき混ぜていく。 今年3月、江戸時代に因幡街道の宿場町として栄えた大原宿の一角に喫茶店「あんこや・ぺ」をオープン。自家製あんこを使ったあんみつやもなか、あんバタートーストなどを提供する。
竹内由里子さん

田舎移住に一歩を踏み出せない人の背中を押せるような人になりたい

手間暇掛けて作ったあんこは大阪や東京、三重のパン店やケーキ店など10~15店の取引先を抱える。

「田舎だから仕事ができないということはない。工夫次第で田舎だからこそできる働き方がある」

竹内さんは兵庫県中部の多可町出身。短大入学を機に大阪に移り住み、卒業し約10年間保育士として勤務。その後、夜勤で保育の仕事を続けながら雑貨店員に転職した。

「自分だからできる仕事って何だろう」

朝も夜も仕事をしていた頃、疑問を抱き始めた。その時ふと、あんこ作りが目に留まった。

「お菓子作りが得意だったわけでも特別なきっかけがあったわけでもなく、気になって作り始めた」

その頃、友人の紹介で少量のあんこを欲しがっていたパン店の店主と知り合った。メーカーが作るものは少量での販売がなく困っていたといい、商品として卸すことになった。

「自分の作った物を必要としてくれることがうれしかった」

その喜びは竹内さんをあんこ職人の道に向かわせた。

2018年に大阪市中心部のシェアキッチンであんこの量り売り店を開店。19年8月には共通の知り合いがいた元美作市地域おこし協力隊員の夫との生活のため、美作へ移住した。

「結婚したからといって仕事を辞めたくなくて、ここで生活していくための手段を考えた」

「あんこや・ぺ」は都会にある同様のカフェほどお客が多くはないことを逆手に「ほっとできる場所」をコンセプトにしている。

卸売りの取引先を徐々に増やし、あんこの製造拠点も大阪から美作の自宅に移した。大阪の店舗は月に1、2日程度開店している。智頭急行や高速道路でつながる利点を生かして、顧客を含め、都会からの集客を狙う。

コロナ禍で社会や生活がどう変わっていくのか、漠然とした不安が社会に広がる中、「作る物はあんこだけでも、生活スタイルの変化に対応できるよう、複数の収入源を確保しておく必要がある」と揺るぎない信念を口にする。

使用する小豆は北海道の農家と契約し仕入れてきたが、今年からは美作市産の白小豆の取り扱いも始めた。

「田舎への移住を考えていても一歩を踏み出せない人がいる。そういう人の背中を押せるような人になりたい」

竹内さんは美作の地で力強く決意した。

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