地域に生きる“みまさか”の若手たち
早瀬久善さん =津山市川崎
地域に生きる“みまさか”の若手たち
早瀬久善さん
=津山市川崎
おいしい豆腐を作るだけでなく、いろいろな方法でもっとお客さんを喜ばせたい
「二度と同情で買ってもらうようなことにはしない」。昨年11月に社長に就いてからも大豆を粗くあるいは細かくすったり、炊く時間を何度も変えて調整したり。「お客さんを喜ばせることが第一」と試行錯誤を重ねる。
スーパーなどへの出荷は、国産より安価な輸入大豆を使っているが、直営の「早瀬豆富店」(東新町)は別。「作れば作るほど、地元の農家が喜び、地産地消にもつながる」と、作州地域の5戸から仕入れた大豆を使用する。
店名の「富」は「豆腐でみんなが豊かになってほしい」との意を込めた。
戦後間もない1948年に創業した。祖父武道さん(故人)が、川崎の自宅に店を構え、82年には早瀬食品を設立した。
「スーツを着て出勤しているサラリーマンはかっこいい」。幼い頃から休みなく働く両親を見て「大変そう」と思い、2代目の父浩之さん(67)も一人息子に「跡を継いでほしい」とは言わなかった。
津山高、関西大を経て大手物流会社に就職すると、山口県下関市で働き始めた。帰省は盆と正月の年2回。当初は気にしていなかったが、帰るたびに両親が年を取っていくと実感する。
自身が働いていた会社の従業員は1万人。一方の早瀬食品は15人ほどだが「1人に対する重要度が違う」と考えるように。ほぼ手伝ったことのなかった家業を継ぐ決意を固めたのは、10年ほど前だった。
オープン4年目を迎えた直営店は、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定されている城東地区の旧出雲街道沿いに出店した。
江戸時代の町並みが残り、子どものころから親しんできたこの地区の活性化に役立ちたいと思ったからだ。地域の小学校や親子クラブで豆腐作りの体験会を開くなど、地元との関わりも大切にしている。
おからで作ったドーナツ、豆乳を使ったシフォンケーキなど、豆腐に関連したスイーツの開発や販売にも力を入れている。来年2月には、直営店にきれいな庭を眺めながら食事ができる座敷を増設する予定だ。
「おいしい豆腐を作るだけでなく、いろいろな方法でもっとお客さんを喜ばせたい」。これからも試行錯誤は続く。