地域に生きる“みまさか”の若手たち

田原 洋平・聖美さん =美作市上山

地域に生きる“みまさか”の若手たち

田原 洋平・聖美さん
=美作市上山

「子どもたちが伸びやかに自分を表現できる学びやがもっとあってほしい」。公立の小学校教員だった2人の共通する思いだった。
田原 洋平・聖美さん

子どもの充実した笑顔を見られることが幸せ

栗や柿を収穫したり、かまど炊きご飯の炊事番をしたり—。木のぬくもりが感じられる園舎で子どもたちが遊び回る光景が里山の自然にすっかり溶け込んでいる。それもそのはず。この園舎には壁がない。

棚田の風景が残る美作市上山地区。休耕田になっている棚田の1枚に「お山のおうちえん」は立つ。

「やりたいことができる環境の中でこそ、子どもたちは健やかに成長していける」

全身を使って遊び、子どものありのままの姿を認めてあげられる保育が田原さん夫妻の理想だ。

2人とも美作には全く縁がなかった。洋平さんは奈良県出身で、青年海外協力隊に参加した後、横浜市で教員として勤務。聖美さんは北海道出身で、道南西部の奥尻島で教員をしていた。

2人は2012年に出会った。「子どもが自由で、主体性を伸ばす教育に携わりたい」と14年、理想を求め、私立小中学校などを運営する和歌山県の学校法人に洋平さんが就職した。演劇や農業、木工などの体験活動を通じ、子どもが目を輝かせ、自分らしい生き方をしていたことに感動した。

「自分たちの暮らしを自分たちの手でつくる中で子育てをできれば」。1年間をかけ、瀬戸内海の離島などを巡った末に不動産会社の紹介などで上山地区にたどり着いた。ゆっくりとした時間が流れる集落に魅力を感じた。

17年4月、当時3歳の長女と生後3カ月の次女と、上山での家族4人の生活が始まった。

最初の2年間は地域住民とコミュニケーションを取りながら、米や野菜作りを教わり、空き家だった自宅をリフォーム。19年4月に自宅を利用して保育施設を開園した。

その後、園の保護者と一から手作りした現園舎が今年3月に完成。市内や美咲、和気町から3〜6歳の12人が通っている。

スタッフは2人を含む保育担当5人と調理担当2人の計7人。

「大人と子どもが互いに尊重し合い、共に育ち合う対等な関係の場でありたい」。田植えをすれば一緒に泥だらけになり、川遊びをすれば共に飛び込む。

「自分がしたいことができた時に出る、子どもの充実した笑顔を見られることが本当に幸せ」と洋平さんはほほ笑む。

「この環境での日々を通して、心も体も健康に育ち、力強く生きていってほしい」と聖美さんは思い描く。

2人の理想の“おうち”づくりは、始まったばかりだ。

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