地域に生きる“みまさか”の若手たち

花房 紗也香さん =奈義町

地域に生きる“みまさか”の若手たち

花房 紗也香さん
=奈義町

「美術が子どもたちの将来の選択肢の一つになったなら」 9月に自宅近くにオープンしたばかりの絵画教室「アトリエ ブロン」。一生懸命に絵筆を握る子どもたちに温かい視線を注ぐ。
花房 紗也香さん

子どもたちの生き生きとした表現が、新しい発見をさせてくれる

教室には地元の小学生を中心に13人が通う。集中して一つの課題に没頭する子もいれば、次々と新しいことに挑戦する子もいる。思うままに創作することを体験してもらうため、個性やペースを尊重しながら教えている。

花房さんは「内と外」をテーマに部屋の中と窓から見える景色を油絵で描いてきた。壁一面を埋めるほどの大作を得意とする。

「私だからこそ伝えられるものがあると思う。生徒と向き合って、一人一人の感性を引き出してあげたい」

 

英国ロンドン生まれ。3歳から神奈川県で育ち、東京の多摩美術大に2008年入学した。11年、若手美術作家に贈られるシェル美術賞の審査員賞、13年には平面作家の登竜門・VOCA賞を受賞。大学院を経て、画家として本格的に活動を始めた。

岡山との最初の縁は15年。倉敷市内に長期滞在して制作する大原美術館主催の企画に選ばれた。16年には作州地域で開かれたアートイベント「美作三湯芸術温度」に出品。この頃知り合った奈義町職員の夫と結婚し、18年11月に移住した。義父が改修した空き家をアトリエ兼教室として活用している。

今、花房さんは創作環境に恵まれていることを実感している。都会にいた頃はアトリエの賃料が高く、アルバイトとの両立に悩まされていた。やむなく実家の車庫を活動の拠点にしていた。

「出会いや縁を大切にしていたら、自然と奈義に行き着いた。制作に打ち込める環境があるのが本当にありがたい」

奈義への感謝の思いは花房さんの考え方をも変えた。

神奈川でアルバイトしていた小学校受験用の美術塾では、子どもたちが大人が喜ぶ絵や合格するための絵を描こうとすることに心が痛んだという。

「小手先の技術を教えるよりも、感性を伸ばしてあげることの方が大事。自由に創作できるような教室があれば」

奈義に居を構え、地域との関わり方を考えるうちに、自身の経験を生かしたいという思いが湧いてきた。

専門の洋画以外も積極的に教え、子どもたちには足で描く体験もしてもらった。

「子どもたちの生き生きとした表現が、逆に私自身に新しい発見をさせてくれるんです」と目を輝かせる。

自分が人との縁でこの地に導かれたように、アートイベントなどを計画して作家を呼び込む考えもある。その作家と自分、作家と教室生、作家と奈義というさまざまな絆が絡み合い、新しい価値観を奈義町から生み出していくことが夢だ。

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