地域に生きる“みまさか”の若手たち
樋口 美貴子さん =真庭市見央
地域に生きる“みまさか”の若手たち
樋口 美貴子さん
=真庭市見央
笑顔を取り戻せる、そんな居場所を目指したい
月のように優しく寄り添い、お母さんたちの笑顔を咲かせたい—。助産院名の「咲月」には、助産師である樋口さんのそんな思いが込められている。
真庭市・湯原温泉郷の真賀温泉(仲間)にほど近い、勝山地域の見尾地区。山あいの小さな集落にある自宅で開業し、この10月で丸2年を迎えた。
お産は扱わず、整体や骨盤調整のワークショップなど産前産後のケアやママ友づくりをサポート。沐浴もくよくや体重チェックを含む授乳相談や、産後の体を休める日帰りケアといった市の助成が受けられるサービスも請け負い、南は落合、北は蒜山から利用がある。
産科医療機関が少ない真庭地域にあって、安心して産み育てられる環境づくりに一役買っている。
樋口さんは総社市で育ち、高校卒業後は看護師を目指したが、新しい生命の誕生に立ち会う助産師の仕事に魅せられ大阪府高槻市の専門学校に進学。現地の産科病院と岡山市の産科医院で計7年間お産に携わった。結婚を機に真庭市見尾の夫の実家に移住。落合病院(落合垂水)の産婦人科に勤務した。
しかし、医療機関では出産後に授乳法などを助言してあげたいと思っても、退院後は関係が切れてしまうケースを何度も経験。子育てに追われる姉の姿も目の当たりにし「日々刻々と成長する子どもと四六時中向き合うお母さんって大変。不安も多く支援が必要なのでは」との思いを強くした。
正職員からパートに切り替え、2017年4月から個人で子育て相談やマッサージの出張サービスを開始。翌年10月に助産院として自宅をリフォームし、来所者に対応できるようにした。
「おなかが張る」「腰が痛む」「おっぱいを飲んでくれない」…。産前産後の悩みには母親の生活スタイルや性格も影響する。人によって原因はさまざまだ。だからこそ、姿勢の矯正や呼吸法のトレーニングを試して体の不調を解消したり、乳首の含ませ方を変えてみたりするなど、本人と一緒に考えながら乗り越えることを心掛ける。
「『自分で解決できた』という経験の積み重ねが自信になり、女性から母になっていけると思うんです」
それでも、家族や周囲の協力が得られずストレスや不安を募らせ、追い詰められる人がいないとも限らない。樋口さんは初めての来所者でも無料通信アプリ・LINE(ライン)の連絡先を交換し、ワークショップ後のランチ会を企画するなどコミュニケーションを取りやすい雰囲気づくりにも気を配る。
「涙を流していたお母さんの表情がぱっと明るく変わる瞬間が何よりうれしい。ここに来ればまた頑張ろうと笑顔を取り戻せる、そんな居場所を目指したい」