地域に生きる“みまさか”の若手たち

豊福 祥旗さん =奈義町中島西

地域に生きる“みまさか”の若手たち

豊福 祥旗さん
=奈義町中島西

作州地域特産の黒大豆「作州黒」を牛に与えるのは出荷前の3カ月だ。 生産者らでつくる協議会が指定する配合飼料を使うなど、要件を満たせば認定される奈義町産ブランド牛肉「なぎビーフ」。自宅に隣接する牧場で約150頭を肥育する豊福さんは、餌の稲わらに町産を用い、繊維質の多いサトウキビの搾りかすを配合するなど、独自の工夫にも努める。
豊福 祥旗さん

消費者とつながる農業

稲わらは地産地消、搾りかすは牛の体調を整え健康に育てるのにも役立つといい、「品質が良いのは当たり前。農業の価値を高めるには“この人なら”という信頼感が必要」と話す。

2013年、父雅人さん(69)を社長に株式会社「Original(オリジナル) Quchi(キューチ)」を設立し、自らは取締役に就任。Quchiは、究極の地産地消という意味で付けた。

牧場は祖父の通之さん(故人)が始めた。牛を飼う生活は普通のことだったが、中学から高校にかけて、さまざまな職業を知るにつれ、気持ちが変化してきた。

テレビ業界やパイロット、弁護士…。華やかに思える職種は多く、重労働、汚いといった「いやな面ばかり見え、魅力を感じなくなった」という。

本気で家業と向き合ったのは津山高2年時。仕事としての農業は、人が生きていく上で欠かせない「食」を扱う。「売り方やコストの抑え方…。いろいろ勉強していったら、ものすごく面白い。農業の魅力を伝え、価値を高めるには農業者になるしかない」と決めた。

03年、熊本にある東海大農学部(当時は九州東海大)に進学。卒業した07年春に奈義に戻ると、肥育だけでなく、情報発信にも力を注ぐように。岡山市内で直営レストランを営業(14〜18年)し、15年からは自宅近くに直売店を構える。

農業者仲間のグループで、消費者に生産現場を訪れてもらったり、食べ比べをしてもらったりと食育にも努め、これらの活動で聞いたお客さまの声を肥育にもつなげている。

「豊福牛 赤」。東京・新宿の百貨店で扱われる赤身が魅力の肉は、レストランの開店準備をきっかけに生まれた。

一般的に霜降りが多いほど取引価格は高くなるが、飲食店関係者から「高齢者には『脂のさしはいらない』と言う人もいるよ」との話を耳にする。

「軟らかい赤身」を目指し、餌を試行錯誤。牛のストレスを減らそうと牛舎と放牧地を自由に出入りできる環境で育て、3年ほど前に販売にこぎ着けた。

現在、牧場は転換期にある。和牛と乳牛を掛け合わせた交雑牛の割合を減らし、将来の輸出もにらんで全て和牛にする計画。近く、子牛を産ませる繁殖にも取り組む。

自然の豊かさや人との触れ合いなど、「僕はものすごい魅力があると思っているからこそ、ここに住んでいる」。生まれ育った奈義で、新たな試みを続ける豊福さんの思いだ。

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