地域に生きる“みまさか”の若手たち
和田 優輝さん =津山市下高倉西
地域に生きる“みまさか”の若手たち
和田 優輝さん
=津山市下高倉西
建物と“まち”デザイン
その一例が、市内の事業者から依頼を受け、来春の開園に向けて同市河面で建築中の保育園。自然と触れ合える小規模でアットホームな園を—との希望に応え、子どもたちが近くの雑木林で遊べる敷地を選び、園舎は木造で周囲の風景に溶け込むよう工夫した。
直接依頼者と話し合いを重ねたり、保育士との意見交換会を開いたり。顧客の思いを引き出し、ビジョンを共有する作業は、都市再開発に携わった大阪時代には経験できなかったことだ。
幼いころから手先が器用で、図画工作が得意だった。高校生になり、「建築も楽しそう」と興味を持った。
早稲田大理工学部建築学科に進み、古い建物の保存や活用を学んだが、職場では生かせないまま。深夜まで働き、家族と過ごす時間は限られる。独立し、やりたいことをするには大都会より「地方がいい」。1級建築士の資格を取り、30歳の時に妻瑞穂さん(42)の実家が建設会社を営んでいた津山市に移った。
移住から2年後、その建設会社で働いていた2010年6月、飛躍につながる仕事が舞い込んだ。当時、岡山、倉敷市に工房を持っていたアパレルメーカー・ナップが、伸び伸びものづくりできる場所をつくってほしいと打診。「狭い都会で創造的な仕事はできない」という考えに共鳴し、場所探しから始めた。
「村のようなオフィスに」。岡山市にあった本社に毎日のように通い詰める中で生まれた要望に沿い、12年に「nap(ナップ) village ビレッジ 」が完成。森に包まれた吉備中央町の小学校分校跡を工房、店舗、住居などを備えた複合施設に再生し、13年のグッドデザイン賞に輝いた。
「多くのメディアで紹介され、条件が不利とされる土地への企業移転の可能性を知ってもらえた」。つかんだ自信も胸に同年、自身の事務所を構えた。
新庄村の閉店した理髪店は、酒類を楽しめるバーに改修して村民らが集えるようにするなど、学生の時に抱いた「使われなくなった場所を有効活用したい」との思いを相次いで実現しているだけではない。
津山市内の商工関係者らと外国人観光客を呼び込むための文化体験ツアーづくり、医療機関と連携した終末期医療の在り方の検討など、活躍の場は広がっている。
地元・高倉地区では町内会の集まりに積極的に加わり、地域の人たちと山林や耕作放棄地などを整備して子どもたちが遊べる「プレーパーク」を開設。地区の将来構想をまとめた未来ビジョンづくりにも携わった。
「都会と違い、規模は小さくても地域社会が動き出す実感を持てることは大きい」と和田さん。企業や地域に寄り添いながら、建物、そして“まち”のデザイナーとして作州の地でチャレンジを続ける。