地域に生きる“みまさか”の若手たち

河野 尚基さん =真庭市久世

地域に生きる“みまさか”の若手たち

河野 尚基さん
=真庭市久世

現在の社長は4代目に当たる父の幹市さん(69)。河野さんはいずれ後を継ぐ身だ。 「5代目見習いといったところですかね」。にこやかに話す河野さんだが、味噌の仕込み作業になると、表情が引き締まる。
河野 尚基さん

真庭の食文化守りたい

圧力釜でゆであげた大豆を冷ましてつぶし、麹(こうじ)と塩を少しずつ加えながら混ぜ合わせる。大豆の青臭さが抜けているか、均等に混ざっているか。味見や食感、手触りで何度も確かめながら丁寧に造りあげる。時折、河野さんの声が飛び、作業場に緊張感が走る。

父親の薦めるまま東京農大へ進学し、醸造学を専攻した。

敷かれたレールの上を走りながらも家業への関心は薄かったが、4年生の時、友人の言葉に自覚が芽生えた。

江戸時代から続く和食の料理人の家系という友人は食文化の伝承に誇りを持っていた。話しながら考えた。「味噌やしょうゆも日本の食文化。さば寿司(ずし)も、うちの酢がなければ久世の味にならない。僕は真庭の食文化を守る人間なのかな」

卒業を控え、大学から薦められた就職先を断って、スーパーで味噌のパッケージを見て京都の味噌製造会社に入社。製造、営業、衛生管理まで3年間学んだ。

25歳で帰郷して15年。自慢は、他にない優れた蔵付きの麹菌だ。祖父が開発し、父が改良した人気の味噌を買い求める帰省客や地元出身者から「祖母の作っていた味にそっくり」「やっぱりこの味じゃないと」などと言われると、あらためて「真庭の食文化を担っている」と実感する。

「同じレールかもしれないけど、いったん駅で列車を降りて、今は自分の足で歩いている」という河野さん。酢、味噌、しょうゆと同じ発酵食品に携わる市内の若手経営者らで2012年に「まにわ発酵’s」を立ち上げ、代表を務める。

自身の工場と酒蔵、チーズ工房、ワイナリーなど7社で構成。年1回程度、各地のレストランや百貨店で発酵食品の料理教室や試食会を開催。おいしさを生み出すこだわりの製法を紹介している。5月には東京の料理人や食品関係者らを受け入れ、1泊2日で地元食材を使った発酵食品を味わってもらうツアーを実施した。対外的な活動だけではない。メンバーの交流で発想が広がり、新たな製品も生まれている。

「真庭には質の高い発酵食品が集まっている。これは豊かな自然のたまもの。商品を通じて真庭の良さが伝わるし、子どもたちも古里を誇りに思えるはず」と力を込める河野さんが見つめるのは足元だ。「それぞれが本業を大切にし、実直な仕事を通じて、この地域でしかできない商品に磨きをかける。それが僕たちのできるまちづくりだと思う」

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