ニューノーマルへ-コロナとその先-
【#12】パーマカルチャーセンター上籾代表 ホルツヒューター・カイルさん
〜体の中に「極相林」を〜
僕は医師ではないし、疫学者でもない。ただの意見として聞いてもらえればいい。
人間の体内や皮膚、口内にはバクテリア、菌類、ウイルスなど、何百億もの生物がすんでいる。人間の健康はこうした生物に頼っている。免疫との関係もあるし、消化にも関与している可能性があると言われている。毎月のように新たな成果が発表されている最先端の研究分野なのだけれど、健康な人は生物の多様性が高いのだそうだ。
しかし、今、体の中の砂漠化が進んでいると言われている。体内や皮膚にすむ生物の多様性が失われているという意味だ。食文化や睡眠不足、ストレスといった生活環境の近代化で、本来あるべき多様性が50%、30%と減っている。今、新型コロナウイルス対策でマスクを着け、手指を消毒している。仕方ないけれど、本来は多様性を減らす方向につながることだ。
砂漠化したらどうなるか。砂漠でも生きられる植物がはびこることになる。もう少し分かりやすい例でいうと、畑を思い浮かべてほしい。畑を耕すと表面はいったん土で平らになる。そこに最初に生えるのは雑草だ。多様性が失われ、単質化して弱った生態系に、その季節や気候に最も適した雑草がはびこっていく。
今、新型コロナウイルスが世界に蔓延しているが、コロナは弱った体内の生態系に入り込んだ雑草のようなものだと思う。
雑草が生えているからと除草剤をまくと、土の中のミミズや微生物も減る。雑草はいったん枯れるが、また同じ雑草が生えてくる。その繰り返しだ。
理想的な状態を自然界で例えると「極相林」だ。非常に多様性が高くて安定性も高い。山や森だけでなく、湿地などどんな生態系でも多様性が高いほど生態系が安定している。
手指の消毒を徹底するだけでは、永遠にコロナとの闘いが続く。そうならないためには、健康な生物を増やす対策をとるべきだと思う。体の中に「極相林」を取り戻すのだ。
そのために最も影響が大きいのは食だ。同じものばかり食べていると体内に同じ生物しかすまない。同じ野菜でも健康な土壌で育てられたかどうかで、体内にすむ生物が変わる。農薬を使わず、化学肥料も使わないほうがいい。ライフスタイルも影響するそうだ。睡眠不足とかストレスとかで、大腸にすむ微生物の種類が変わるらしい。
僕は、久米南町でパーマカルチャーセンター上籾を主宰している。パーマネント(永続性)とアグリカルチャー(農業)からの造語だけれど、衣食住、エネルギーなど、人間が必要なものを自然環境から調達している。僕は里山の暮らしが好きだ。健康な水、土、山、木…必要なものはすべてここ里山にある。けっこう幅広くて、ここで農業や建築、エネルギーに関する講座やワークショップを定期的に開いている。
コロナ禍を受けて、都会では健康な生活が難しいと、田舎への移住を考える人が増えているというけれど、第一は健康な土でできた作物を食べることだ。都会に住んでいても、田舎の作物を買って食べることで体内環境がより多様化する。
住環境では土壁を推奨している。土壁は調湿性に優れ、冬には室内の乾燥を防ぐ。日本にはかつて「泥コン屋」という壁土を作る会社がたくさんあった。しかし、新建材に取って代わられ、毎年、数が減っている。土壁の材料は土や竹だ。これを増やせば、里山の資源を生かした事業が復活する。
都会と田舎のつながりを再構築したり、田舎の資源を見直して経済を活性化させたり。そうした志向を進めるきっかけにコロナがなればいい。
パーマカルチャーセンター上籾 代表
ホルツヒューター・カイル 博士(生物資源科学)
※パーマカルチャーセンター上籾
https://www.facebook.com/PermacultureKamimomi