ニューノーマルへ-コロナとその先-
建築・都市・地域・暮らし
「新型コロナウィルス」との共存が始まり、半年近く経った。
一つの目に見えないものによって、“先進国・後進国“、”貧富の差“などほぼ分け隔てなく、グローバル化した世界はいとも簡単に従来通りの機能を失った。世界に張り巡らされたサプライチェーンは、途切れ途切れとなり、身近な物品の納期や業務にも影響があった。グローバル化を利便性としては実感しにくかったが、いままで通りではない不便さによって実感することになった。
私たちの身の回りにおいても、ソーシャルディスタンスなど、有効といわれる方法を手探りで取り入れながら、従来に近い社会生活をどうにかこうにか維持しているといったところだろうか。
いまは、まだ“乱気流”の中。
刻々と状況が変わるし、道筋を見通すことで安心感を得る私たちは、やっぱり先が見えないことは不安だし、あーだこーだと様々なことに思慮・配慮を巡らせ続けていていくら慣れても楽ではない。大なり小なりすべての人に影響があるこの事象の先にどんな未来を創造するか。この寄稿、どんなことを投げかけたら、読んでくれた方とともにこの乱気流を抜ける勇気を持てるか、そんなことを思いながら、なかなか書けない日々が続いた。
ここだけは、“みま咲く未来プロジェクト”への寄稿であるから、美作地域の未来にとって、明るい兆しとして少し「楽観的」な気持ちをあえてもって書きたい。
私は、津山に拠点を置き、建築や都市のデザインを専門に仕事をしている。様々な業種の企業からイノベーションの支援相談を受け、建築という事業投資で最も大きな分野を通じて、事業上の動線やコミュニケーション、表現の改善などについて、新しい発想での解決策を提案している。個人のクライアントには、生活や人生観を形作る基盤となる快適で安心して過ごせる家を一緒につくったり、時には行政からも都市構造についての意見を求められたりしている。余談だが、概して言えるのは、とても複雑で高度化した時代に私たちは過ごしていて、理想郷をまっさらなキャンバスに描くような時代ではなく、様々な部分を、経済やルールなど様々な諸条件を吸収しながら編集し、少しずつまちを改変していく。まちや環境というのは、大きすぎて捉えられないため、普段それほど気にしないかもしれないけど、ほんの少しだけ、これからの“みま咲くプロジェクト”世代の方に知っておいていただければ嬉しい。自分たちのまちへの意識が、この地域をますます魅力的かつ持続可能なものにしていけるはずだから。
さて、いま都市において何が起きているかといえば、一極集中の見直しに目が向いている。
都市は、ずっと人の集積を目指し、集積こそが産業の効率化を生んできたが、時代そのものの潮目が変わろうとしている。奇しくも在宅ワークなどもほかのどんな政策やキャンペーンよりも有効に作用し、オンラインを使った業務遂行やときには飲み会などのコミュニケーションも、必要に迫られて、手探りながらも瞬く間に浸透した。
全てが極論に収束することはないとしても、オンラインの徹底的な普及を背景として、都市の一極集中には、業務を遂行させるための価値はあるものの、生命の危機やリスクという側面が少なからずあることも見えてきたのは事実だ。
全ては限られた情報の中での仮説だが、ニューノーマルを都市・空間の分野からみれば、「いかに高密度を回避しながら社会機能を維持するか」ということになろうか。「空間」の設計に携わるものから見れば、距離・密度・場への価値観の転換は、ひょっとしたら社会のOSの書き換えくらい大きな出来事になるのかもしれないとは見える。
これまでは、物流も店舗経営も都市インフラ、教育や医療さえも、人口・距離・密度が多くの計画の基本になっていた。オンラインという、場所から切り離された世界の存在が社会に実装されたことで、大袈裟に言えば、世界とつながりながらも場所から自由になれる時代が、あっという間にそこまでやってきてしまった。「場」「地域」「リアル」の意味を根幹から問い直す必要もでてくる。都市部にかかわらず、働き方、オフィスのかたちも変わるかもしれない。在宅やサテライトオフィスなど、一堂に会さない方法で、リスクの分散もじわじわと浸透している。都市と地方の境界も曖昧になっていくかもしれない。
もう一つ、この先の時代を考えるときに、コロナ禍前から大流としてある人口減少・人口構成の変化、持続可能な社会への取り組みなどがニュースの裏に隠れてしまっているところもあるが、視野から外すことはできない。
大流と突発的な激流のようななかで、より良い社会はどんな姿をしていて、どんな生き方を私たちはしているのだろうか。これだけを聞くと大変な時代になってしまったようにもみえるが、ポジティブな可能性を見出し、環境適応していくことはこれまでの歴史をみても大切なことだ。その答え・具体例を一つでも提示することは、私たち建築家・デザイナー側も力を発揮したいところだ。少し前の時分から都市への潮流へは乗らず、同じ中国地方に拠点をもち活動されている仲間の姿が、この先の時代をゆく姿のようにも改めて見えるので、素描のひとつとして紹介したい。
たとえば、岡山県吉備中央町の山間部に拠点を構え、世界中に支持される「superior labor」のバッグや「ハチガハナ」の名で知られる服や小物をつくり続けている「nap」のオーナーがいる。自然環境豊かな土地にニーズを持っていた彼らと出会い、私達は土地探しから始めた。山中の廃校とその敷地を、恵まれた環境を活かしながら、住居・店舗・工房の集まる「村」のような場所として再生。生産性を高めるための企業移転のため、アクセス性や工房や住居などが構えられる広さ、それに加えて、海外から訪れるバイヤーに対しても自慢できるような環境だった。
また、地域のシンボルとして分校跡地を取り巻く担い手の高齢化などの課題とを結びつけ、建築物の物理的な再生活用および、古い担い手と新しい担い手のコミュニティの再編を行い、ハード・ソフト両側面から地域社会の持続性を高めた。地元の方々との丁寧なコミュニケーションの上に企業を移転。害獣「イノシシ」を料理、革小物に活用する等、都会にない資源も活かした。世界を舞台に卸売業を行う販路をもつ「nap」は、強みを活かしつつ、地域の魅力を引き出すことや地元の地域課題解決、雇用創出も視野に入れ、地域の課題の解決に一役を担っている。
そうして、彼らは、自然から得るインスピレーションを大切にした暮らし方、また都市部へ集中するアパレル企業とは違う個性を放つ働き方を実現した。
地域の歴史をゆるやかに継承し、企業理念を実現する。店舗や住宅などの建物群の人工物にとどまらず、山の地形や動植物、光・風・音などの外部空間までが一連のものとしてデザインされた環境の中に居ながら、社会や経済と繋がり生きていく。
ニューノーマルという時代には、低密度が自由な広がりや清々しさを感じさせ、豊かな自然と共生し、世界の経済ともつながれる。潮流が変わり、ますます、こんな理想的な暮らしを実現しやすくなるのかもしれない。
この美作地域のポテンシャルに今一度光を当ててみれば、そこには人口や経済、生活の密度が安定し、穏やかな日々があるまちと暮らしの姿がみえてくる。そこから先の豊かな地域の未来像の素描を、医療福祉・教育・産業分野と様々な分野のクライアントとともに、田んぼに囲まれた長閑なスタジオで今日も続けている。
和田優輝
(株式会社和田デザイン事務所 代表取締役)