“みまさか”ではたらく人物図鑑
株式会社英田エンジニアリング NIC製造部 次長
万殿 信行 さん
1973年、京都市生まれ。1歳から岡山県旧英田町(現美作市井口)で育つ。立命館大学経済学部卒。外資系大手外食チェーン勤務を経て2000年英田エンジニアリングに入社。
踏み間違い事故防ぐ製品開発
「当社の製品で悲しい事故を防ぎたい。1人でも多くの高齢者の役に立てれば」と話すのは、産業機械メーカー「英田エンジニアリング」(美作市三保原)の万殿さん。
同社はアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故を防ぐ後付け安全運転支援装置「アイアクセル」をはじめ、コインパーキングのロック装置を地面に埋め込んだ「ゼロフラップ」など、独創的なアイデアで高齢者や女性、障害者に優しい数々の製品を生み出してきた。
都会からのUターンで現職に就いた万殿さんは、美作市の自然豊かな環境と相性が合い「ものづくり」に没頭。
部品調達から工程管理、協力会社との交渉などを一手に担い、現在は今年8月に国土交通省から性能認定されたアイアクセルの量産化に向けて奔走している。
高校卒業まで旧英田町(現・美作市井口)で育った万殿さん。京都の大学に進学し、卒業後はサービス業に魅力を感じて大手ファストフードチェーン店に入社し、京都市内で働いていた。
ところが26歳の時に実家の両親が体調を崩しがちになり帰郷を決意。
実家近くにある、金属成形による建築資材や自動車部品などを製造・販売する英田エンジニアリングに入社した。
「帰ってきた当初はコンビニもなく不便さを感じましたが、24時間昼夜の区別がない以前の生活に比べて、豊かな自然環境の中でメリハリのある暮らしはとても健康的。
数年するともう都会には戻れないと感じましたね」と笑う万殿さん。
サービス業から畑違いのものづくりの世界の転身に、戸惑いを感じながらも懸命に仕事を覚え、駐車場駐輪機器の開発チームの一員として部品調達を担当すると次第に仕事の楽しさ、面白さを実感。防水性能の高いコンパクトなストロークモーターを見つけ出し、地中収納型のゼロフラップの開発を進めるきっかけを作った。
協力会社や販売会社との関係づくりにも、前職で培ったコミュニケーション力を発揮。入社時のコインパーキングのロック装置年間販売台数約1200台から現在の約2万台に成長するまで、購買担当を主として尽力してきた。
「取り付けてくれて安心したわ」「助かった、ありがとう」―そんな言葉を直接聞くことができる「アイアクセル」の仕事には、格別のやりがいを感じている。
アクセルを過度に踏むとブレーキが働く仕組みの機械式のアイアクセルは、マイカーに後付けできるのが特長で、地元の高齢者はもちろん、関西方面からも問い合わせや注文が押し寄せる。
「車種の型式ごとに合わせて作るオーダーメイドなので、手間がかかりますが、お客さまの事情や困っているという話を聞くと何とかしてあげたいと思うんです」。
万殿さんらは従業員や従業員の家族、近隣の自動車販売会社から車を借りて型を取るなど地道な作業を進め、現在は軽自動車や普通車の50車種以上に取り付けが可能に。
8月には国土交通省より性能認定の“お墨付き”も得て、いよいよ量産化に向けて動き出している。
「今まで何十年も真面目に働いて日本経済を支えてこられたお年寄りが、たった1度の間違いで人生を台無しにしてしまうのは悲しい。ぜひ多くの高齢者に取り付けてもらいたいですね」