地域に生きる“みまさか”の若手たち
人見 俊彦さん =美咲町吉ケ原
地域に生きる“みまさか”の若手たち
人見 俊彦さん
=美咲町吉ケ原
両親の思い受け後継ぐ
野菜や肉などの生鮮食品、手作りの総菜から日用雑貨まで、ありとあらゆる商品が並ぶ。人見さんは買い物かごを提げて、手押し車姿の女性の代わりに買い物を手伝う。
「近くに他に店はない。ここだけでいろんな物が手に入るので本当にありがたい」。買い物を済ませた主婦(86)が笑みをこぼす。
人見さんは津山工高を卒業し、大学を1年で中退。大阪に本社がある医療機器メーカーに就職した。美作市に居を構え、同市内の物流拠点に勤務した。妻と3人の子どもに恵まれ、何一つ不満のないサラリーマン生活だった。
転機は予期せぬ形でやってきた。2015年、父真一さん(71)の認知症が発覚。症状は急速に進み、徘徊(はいかい)も始まったため、会社勤めの傍ら両親の店を手伝うことにした。二人三脚で店を切り盛りしてきた母和子さん(72)も17年6月に心筋梗塞で急逝した。
「地域の人の生活を支えるためにも、店を無くしちゃいかん」と言っていた両親の思いを受け継ぎ、サラリーマンをやめた。
お客は、地元の高齢者が中心。車の運転ができずに来店できない人のために、要望があれば宅配も行っている。週に2日、軽トラックに商品を積み込んで移動販売もしている。
とはいえ、地域の人口減少に比例して客足も減っており、経営は決して楽ではない。対面販売に加え、地域の病院と福祉施設に食材を納入し、何とかやりくりしている。
人見さんを支えているのは日々の充実感だ。「地域の人たちが自分を必要としてくれているという実感がある。自分が廃業すれば、大勢の人が困る」
そしてこう強調する。「何よりも地域に支えられてこそ商売が成り立つ」
「地域を支える一員になりたい」。そんな思いからイベントにも積極的に参加している。
月に1度、地元の柵原ふれあい鉱山公園で列車を展示運転している片上鉄道保存会から「観光客が現地で食べられるものが卵かけごはんだけでは寂しい」と相談を受け、店で扱う精肉を持ち込み、バーベキューを振る舞っている。
趣味のバンド活動も数年前に再開した。ギターがメインで、時にはドラムを担当する。毎年7月に地元で開かれる「柵原DonDon祭り」に友人と出演し、盛り上げに一役買っている。
「つかの間でもいい、少しでもいい。自分が生まれ育った古里ににぎわいを取り戻したい」